1.今求められる「リーダー」とは?
リーダーとは、チームや組織の指導者、統率者、先導者のことを指し、その役割は目標達成と課題解決のために指揮することです。優れたリーダーは、チームの能力を最大限に発揮し、良い成果を出せます。
リーダーとしての能力は、先天的な素質のみで決まるわけではありません。これまでの訓練や経験を通じて身に付けてきたスキルによって能力を発揮できます。
リーダーは、主体性に対する認識の次元を高める必要があります。
これまで、主体性とは基本的に自分1人の世界で完結するものでした。リーダーに求められる主体性はこれとは違い、その選択と判断が他者(メンバー)を巻き込むものであることを理解しなければいけません。
ここでは、リーダーに求められる資質とスキルを6つ解説し、それぞれのスキルがある場合とない場合の具体的な行動特性および改善策を提示します。
1)資質・スキル①:主体性と判断力
リーダーに必要な主体性と判断力を身に付けるには、視座を上げることが重要です。
視座を上げて、指揮命令者として物事を考えるようになると、自ずと主体性が生まれてきます。
その後の行動を考えるときに「ミスを減らすには」「納期を短縮するには」「コストを下げるには」といった目的視点がもてると、主体的に何をすればよいかを考えられるようになり、行動につながっていくでしょう。
また、リーダーになると、判断基準も変わります。
例えば、ある仕事を8時間で行うように指示を受けたものの6時間で終わる内容だった場合、受動的であればゆっくり8時間かけて終わらせようと考えます。ここで、視座を上げると、「6時間で終わらせて2時間コストを削減しよう」「空いた時間を別の仕事に活用しよう」という判断になるでしょう。
| スキル有りの 行動特性 | ・指示を待つだけでなく、自ら課題を発見し、解決策を提案する ・チーム目標達成のために、率先して行動を起こし、周囲を巻き込む ・情報収集を怠らず、状況の変化に応じて柔軟に判断を修正する |
| スキル無しの 行動特性 | ・指示された業務以外は行わず、受け身な姿勢で仕事に取り組む ・状況の変化に気づかず、当初の計画に固執してしまい、結果的に目標達成を阻害する |
| 改善策 | ・周囲の状況をよく観察し、問題点や改善点に気づく訓練させる ・小さなことからでも良いので、自ら行動を起こし、成功体験を積ませる |
2)資質・スキル②:目標設定・計画立案力
リーダーには、メンバーの主体性を引き出す目標設定と計画立案力が必要です。
自分がメンバーだったときは、リーダーに目標設定や計画を立案してもらい、仕事の指示を受けて行動していたはずです。しかし、リーダーになれば、その役割は自身がもつようになります。
指揮命令者の立場になると、「いつまでに何を達成するのか」という視点が必要になります。「誰に・何を・いつまでにやってもらうか」という具体的な計画を立案して初めて、他のメンバーに細かく指示することが可能です。
ゴールまでの見通しを他のメンバーに示すことで、チーム全体のモチベーションアップにもつなげられるでしょう。
| スキル有りの 行動特性 | ・チームメンバーの意見を聞きながら、具体的かつ達成可能な目標を設定する ・目標達成までのプロセスを明確に示し、メンバーのモチベーションを高める ・計画に柔軟性を持たせ、予期せぬ事態にも対応できるようにする |
| スキル無しの 行動特性 | ・チームメンバーの意見を聞かずに、独断で目標を設定する ・現実的ではない目標を設定し、メンバーのモチベーションを低下させる ・計画が硬直的で、状況の変化に対応できない |
| 改善策 | ・目標設定の際には、必ずチームメンバーと合意形成を図るよう促す ・目標達成までのプロセスを可視化し、進捗状況を共有する |
3)資質・スキル③:コミュニケーション力
目標を達成するためにメンバーと協力し合う必要がある場合、リーダーのコミュニケーション力が重要です。リーダーのコミュニケーション力が低いと、計画の実行度も低下し、目標も達成できなくなります。
言葉の選び方、コミュニケーションの頻度、コミュニケーションの媒体(オンラインかオフラインか)など、メンバーの行動はさまざまな要因に影響を受けます。プロジェクトを成功に導く行動を引き出すために、リーダーはメンバーそれぞれの立場に立って、どのようなコミュニケーションが最適なのかを状況に応じて選び取ることが求められるでしょう。
| スキル有りの 行動特性 | ・メンバーの意見に耳を傾け、共感的に対応する自分の考えを明確かつ簡潔に伝える ・非言語コミュニケーションも意識して円滑な人間関係を築く |
| スキル無しの 行動特性 | ・メンバーの意見を軽視し、一方的に指示を出す自分の考えを伝えるのが苦手で、誤解を招く ・非言語コミュニケーションが乏しく、冷たい印象を与える |
| 改善策 | ・傾聴スキルを磨き、相手の立場に立って考える訓練をさせる ・自分の考えを整理し、分かりやすく伝える練習をさせる |
4)資質・スキル④:課題解決力
リーダーとして組織を目標達成に導くために、課題解決力は必須のスキルです。
目標達成のために立てた計画は、必ずしも計画通りに進行するとは限りません。計画を完璧に作ることは難しいうえ、日々状況は変化します。
当初の計画通りに進まず目標達成が難しい場合には、リーダーは課題を見つけて解決する必要があります。ギャップが生じていることをいち早く認識し、解決すべき課題が何なのかを特定したうえで、解決策を明示する必要があるでしょう。
| スキル有りの 行動特性 | ・課題の原因を多角的に分析し、最適な解決策を選択する ・関係部署と連携を取りながら、迅速かつ効果的に課題解決に取り組む ・失敗からも学び、次に活かす |
| スキル無しの 行動特性 | ・課題の原因を深く分析せず、場当たり的な対応をする ・関係部署との連携が不足し、課題解決が遅延する失敗を隠蔽し、同じミスを繰り返す |
| 改善策 | ・論理的思考力や問題解決のためのフレームワークを学ばせる ・関係部署とのコミュニケーションを密にするよう促す |
5)資質・スキル⑤:コーチング力
主体的に行動できるメンバーを育成する役割で重視されるスキルが「コーチング力」です。
コーチングとは、コーチ(リーダー)とクライアント(メンバー)の対話を通じて、メンバーが目標達成に向けて主体的に行動することを支援するプロセスです。リーダーが事前に答えを用意する、何かを強制することはせず、メンバー自身が気づくことを重視します。
コーチングを行う際、リーダーはメンバーに目標達成に向けて必要な考え方や行動を問いかけ、思いや考えを引き出すサポートをします。
自身の中から生まれた気づきや答えは、納得感のある指針となり、主体的に行動できる力を引き出せるようになるでしょう。
| スキル有りの 行動特性 | ・メンバーの強みを引き出し、成長を支援する ・メンバーの自主性を尊重し、自ら考え行動するよう促す ・建設的なフィードバックを提供 |
| スキル無しの 行動特性 | ・メンバーに過剰に指示や命令を出す ・メンバーの自主性を阻害する ・抽象的なフィードバックしか提供できない |
| 改善策 | ・コーチングスキルを学び、実践させる ・メンバーの個性や強みを理解し、適切な指導を行うようサポートする |
6)資質・スキル⑥:メンタリング
リーダーがメンタリングのスキルを身に付けておくと、メンバーの育成・スキルアップに大いに役立てられます。
メンタリングとは、経験豊富なメンター(リーダー)が自身の知識や経験を活かし、成長段階にあるメンティー(メンバー)の成長を支援する役割のことです。二人三脚のように共に成長を目指す過程を通じて、メンバーは知識や技術を短期間で吸収しつつ、組織の風土を学べます。
結果として、業績向上やチームの一体感につながるでしょう。
さらに、困ったときに相談できるリーダーの存在は、メンバーにとって安心感にもなり、仕事のモチベーション向上にも寄与します。
| スキル有りの 行動特性 | ・経験に基づいたアドバイスや指導を提供する ・メンバーのキャリア形成を支援する ・ロールモデルとして、メンバーの成長を促す |
| スキル無しの 行動特性 | ・自分の成功体験だけを語り、押し付ける ・メンバーのキャリアプランを無視する ・リーダーシップを発揮できない |
| 改善策 | ・メンタリングスキルを学び、実践させる ・メンバーのキャリアプランを尊重し、適切な助言を行うよう促す |
2.リーダー育成の課題
リーダーの育成は、多くの企業でも取り組んでいる課題です。しかし、多くの企業でリーダーの育成を重要と認識しているにもかかわらず、育成に成功していない企業が存在します。ここでは、リーダー育成における課題について解説します。
1)育成が難しい
大きな問題として、リーダー育成自体の難易度が高いことが挙げられます。
メンバーの力を効果的に引き出すために、リーダーは状況やタイミングに応じて振る舞いを変えます。自己主張する人が少なかったり、曖昧な状況を打破して一気に物事を進めるべき場では、リーダー自らが方向性を掲げてやるべきことを明確にします。一方で多様なアイデアを活かすべき場では、メンバーに任せて一歩引いた立場からサポートします。
また、リーダーが持つ性格やスキル、経験、個性、背景などによってリーダーシップの在り方は異なります。そのため、画一的な教育ではなく、育成対象者の個性を生かすリーダー育成が求められます。育成対象となる人材が「どのような強みを持っているのか」「何が苦手なのか」を把握したうえで、強みを発揮できるような教育をすることが重要です。
画一的な教育ができず、一人ひとりと向き合う育成が求められることが、リーダー育成の難易度を上げている要因と言えるでしょう。
2)現場の負担が大きい
リーダー育成は、現場での現業との兼ね合いが問題になりがちです。研修をはじめとした教育が長期間必要になると、現場を離れる時間が出てきます。メンバーが現場を離れれば、通常の業務に影響が出てきます。そのため、リーダー育成の担当者は、現場の負担が大きくなることを恐れ、育成を後回しにしてしまうことがあります。
しかし、目先の利益確保を追い求めて未来を担う人材育成を怠っていては、企業のためにはなりません。目先の利益と長期的な企業の発展、どちらが重要なのかを企業全体が理解できるように、経営層が人材育成の重要性を周知させる必要があります。
3)リーダー志向を持つ人が減少している
多様なはたらき方が広がる現代では、企業への帰属意識が低下する傾向も一部みられます。帰属意識が低下した場合、自社への貢献よりも個人の都合を優先した行動を取るため、リーダーとしての役割に興味を示すことは少ないでしょう。
パーソル総合研究所の調査によると、リーダー志向のある人の割合は、全年代を通して29.5%で50%を大きく下回る結果が出ました。
また、リーダー志向を持つ人の割合は35歳を機に急降下します。これは、元々リーダー志向を持っていた人材が、入社後に裁量を与えられず与えられた業務をこなし続けたことで、意欲を失ってしまっていることが考えられます。
「鉄は熱いうちに打て」という言葉があるように、企業は20代の若手人材に対して、小規模でも予算や裁量など自己決定の機会をつくり、リーダーシップを発揮できる環境を整備することが重要です。
4)教育体制が整っていない
リーダー育成には、教育内容だけではなく育成に専念できる環境や人事評価制度といった体制づくりが欠かせません。人員不足の会社や経営資源に余裕がない会社にとっては、そのような体制を整備することは難しいでしょう。
しかし、教育体制を整えなければリーダー育成はさらに難しいものになります。体制が整わないまま中途半端にリーダー育成を実施し、結果としてリーダー育成も事業もうまくいかない状態になっては元も子もありません。
人材育成の重要性を理解し、長期的な視点で教育体制を整えたうえでリーダー育成に取り組む必要があるのです。
5)定量的な成果が見えにくい
リーダー育成は長期的な取り組みであり、定量的な成果が見えづらいものです。しかし、短期的な成果を求める経営層が存在します。
育成効果を検証することは大切ですが、リーダー育成の内容は定量化できる項目ばかりではありません。リーダーの育成は短期間でできるものではなく、長い目で判断することが大切です。
また、効果が見えづらい理由として、学んだ知識を実践する機会がないケースもあります。せっかく教育をしても、実践する機会がなければ育成効果は薄れます。学習と実践を繰り返させ、長期的な目でリーダーを育成することが重要です。
3.リーダー育成に盛り込むべき内容
リーダー育成では、自己理解や行動原則の理解といった内容を盛り込む必要があります。また、学習だけで終わらせないこともポイントです。ここでは、リーダー育成の中で実施すべき内容を解説します。
1)自己理解
リーダー育成では、育成対象となる人材が持っている強みや弱み、対人関係の行動特性といった自己理解を深めてもらうことが重要です。
特に重要なのが、ネガティブな状況に陥ったときにどんな行動を取るかを理解してもらうことです。人間は、ストレスやプレッシャーがかかった際に本性が出ます。ネガティブな状況の行動特性を理解することで、自分のものの見方や考え方、対人関係での癖を客観的に理解し、自分の行動を変えていくことができます。
自己理解を深めることにより、自分の苦手な人や状況に対する振る舞い方や声のかけ方を変えるなど、自分の行動をコントロールできるようになることが期待されます。
個人特性に基づく仕事のスタイルやマネジメント行動、組織への適合性といった「行動の源泉」を探ることにより、戦略的な自己理解ができます。
2)行動の原則
リーダーは場の状況やメンバーの特性に合わせた対応が求められます。
行動の原則を学習することにより、今までに経験したことがない状況や大きな変化がある場面でも、行動の原則に照らして応用することで効果的な対応ができるでしょう。リーダーシップ発揮の軸がある行動が周囲との信頼関係構築にもつながります。
4.リーダー育成のポイント
1)企業全体で取り組む
リーダー育成においては、周囲の協力を得られる体制を構築し、企業全体で取り組む姿勢が重要です。リーダーはプレッシャーのかかりやすいポジションのため、ストレスを抱えやすく、孤立してしまうことがよくあります。企業全体でリーダーをサポートできる体制を作ることは欠かせません。
上司がロールモデルとなり、 企業全体で育成していけると、効果も早く出やすくなります 。
2)リーダーに求める行動を明確にする
リーダー育成の導入前には、企業は自社に必要なリーダーの素質・スキルを明確化することが重要です。
明確化した素質・スキルはゴールとして設定できる ため、統一した育成を行うのに役立ちます。また、リーダーに求める行動を具体的に示すことで、リーダー候補者も目指すべき方向性を理解しやすくなり、リーダー育成がスムーズに行えるでしょう。
3)継続的に学習機会を提供する
リーダー育成は短期間で取り組むものではありません。 研修などで学んだことを現場で活用するというプロセスを、繰り返し行うことで定着を図ります。 そのためには、継続的な学習環境とアウトプットの場を設けることが必要です。
学習で身につけたスキルや知識を発揮させるためには、ストレッチアサインメントを取り入れるのも有効です。ただし、初めてリーダーとなる若手社員には、スモールステップで成功体験を積ませることを意識しましょう。
リーダー候補者に合った長期的な育成計画を立て、幅広い経験を積ませることで、多様な状況にも対応できるリーダーの育成につながります。
4)キャリア自律を支援する
キャリア自律を促すことも、リーダー育成に効果的な一手です。
一人ひとりが自分の強みを発揮し、リーダーシップを発揮できるようになるには、自ら考え行動する姿勢が求められます。企業が積極的にキャリア自律を支援すれば、成長イメージや目指すキャリアを自発的に描けるようになるため、結果として能動的・主体的に行動できる、リーダーの素質をもつ人材を育成できるでしょう。
まとめ
リーダー育成では、会社として取り組む姿勢を見せることや自己理解、行動原則に対する理解を深めてもらうことがポイントです。学習と実践をセットで考えることも忘れないようにしましょう。
また、リーダー育成対象者に対する土壌作りも怠ってはいけません。対象者を信頼し、常に気にかける体制を準備することで、リーダー育成の成功率は高まるでしょう。
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